「こんなもんだ」で済ませてしまうことが多い釣りの後の臭い。洗っただけでは、汚れは落ちても臭いは落ちません。今回は、車や部屋などの空間も含めて、石鹸でもなかなか落とせなくて諦めてしまうような臭い対策と消臭アイテムをご紹介します。
釣り人は臭くてあたりまえ?
釣行前と釣行後を比べると、魚の臭いであったり、コマセの臭いであったり、釣り人からはさまざまな臭いがします。しかも、発している本人ですら「嫌だな」「くさいな」と気分がブルーになってしまうほどの臭いです。服や釣り道具、車、部屋など、釣りが原因の臭いは家族にも迷惑がかかります。臭いのメカニズムと消臭対策を考えていきましょう。
臭いを科学する
魚から受ける臭いは強烈です。強敵と対峙する時は相手を研究しなければなりません。まずは臭いを科学的に分析しましょう。そもそも魚から受ける「嫌な臭い」とは何が由来しているのでしょう。知ったうえで防止に努めることで消臭スキルを上げましょう。
酸化が原因の臭い
不愉快な魚の臭いには大きく分けて2つの原因があると言われています。一つ目が「酸化」です。これは水揚げされた魚の油分(脂質)が時間の経過とともに酸化し、分解されることによりアルデヒドやケトンと呼ばれる酸化物が増えたために発生する臭いです。いわゆる「劣化」が原因の臭いです。
旨味成分が分解される臭い
もう一つが旨味成分であるトリメチルアミンオキサイドが時間経過とともに分解されて出る、いわゆる「生臭さ」です。こちらは元が旨味成分であることから料理方法などで押さえることのできる臭いですが、タモやロッドに魚の血液などの臭い物質が付着してしまった場合はすぐに取り除かなければ、「生臭さ」が長期間続いてしまいます。
臭いの原因対策
先の2つの原因は両方ともさまざまな方法で分解・消臭・除去することが可能な臭いです。代表的な消臭方法とその根拠を示します。
ケミカル消臭
化学的に消臭するには「中和」という方法を使います。酸性の臭いならアルカリ性で、アルカリ性の臭いなら酸性で中和消臭します。魚の生臭さの元であるトリメチルアミンオキサイドがアルカリ性の物質であることから、魚の生臭さは酸性の「お酢」などで消臭すると良いでしょう。例として、生臭い魚の代表格である鯖をお酢で〆る「〆サバ」などが挙げられます。
フィジカル消臭
物理的に消臭するには、臭いの元凶を直接取り除く力がある「アルコール」がよく使われます。当然、水洗いなども物理的消臭の範疇に入ってきますが、アルコールがさらに有効です。例えば、コマセの付いたロッドの持ち手などは、水洗い後にアルコールを拭きつけておくだけでアルコールが揮発する時に臭い物質も取り除いてくれるため、かなり有効です。これを「共沸効果」と言います。
バイオロジー消臭
生物的に消臭する方法は、いわゆる「生分解」の力を使います。代表的なものが乳酸菌や酢酸菌を使ったアルデヒドのアルコール還元などですが、これは時間をかけて臭いの元を菌に食べさせる消臭になるため、釣り人の即効消臭にはあまり使われません。ただし、菌による生分解ではない方法の生分解式消臭石鹸などは販売されています。
フィーリング消臭
感覚的に消臭するには、臭いを包み込む物質が必要です。臭いの原因そのものを取り除くのではなく、香料などで臭いを感じなくさせる方法で、これを「マスキング」と呼びます。例えば、青魚に対するショウガや白身魚のポワレに使うフェンネルなどがこれに当たります。実際の消臭剤であれば、「○○の香り」などのいわゆる「いい匂い」を配合してマスキングします。
釣り道具の臭いを軽減するアイテム
こちらが最も重要なポイントだと思います。サビキ釣りなどでオキアミを触った手でEVA素材などが使われているロッドやタモを持つと、素材の細かい目になっている部分にオキアミが入り込み、いつまでも異臭を放ちます。まずは水洗いが基本ですが、それだけでは不完全です。
分解系消臭剤(イオンの力を使う)
「生分解は時間が掛かる」と紹介しましたが、ある程度のスピード感を持って消臭してくれるアイテムも最近では出てきています。「一瞬で」と謳っているものもありますが、それは使用タイミングや個人の感じ方もあるのでアテにはできませんが、かなりの効果が期待できる商品もあります。魚の酸化を進める金属イオンの力を抑制する力(キレート効果)を使うため、釣り道具に吹きかけておけば、翌日にはかなりの消臭ができています。
安全安心の原材料のものを選ぶ
この系統のアイテムは無香料で、かつ食品添加物由来のものしか原料に使われていないものを選びましょう。口に入ったり皮膚に付着したりしても安心であることがポイントです。釣行で直接魚が触れる確率の高いクーラーボックスなどにも安心して使用できるものを選ぶ必要があります。
釣り人の臭いを軽減するアイテム
次は体に付着した臭いを消すアイテムです。前出の臭い成分(汚れ)を物理的に落とすソープと、化学的に落とす2つのソープがあることを知っているだけですぐに消臭名人になれます。
つぶつぶ入りの石鹸
アウトドア大国のアメリカやオーストラリアなどでは臭い消し用ソープとして、クルミの殻の微粉末などが混ぜられた石鹸が売られています。日本でも「スクラブ入り」などのネーミングで色々な石鹸が販売されています。特徴は自然由来の成分。適量を手に取ってゴシゴシするだけでかなりの消臭作用が期待できます。海や川で流してしまっても分解されるものを選びましょう。
中でも、生分解性能のある石鹸を選ぶことによって、化学的に魚臭さを取り除いてくれるので、魚特有のヌメリまで取れるスクラブ入りのものなら一石二鳥です。
半永久的に使えるステンレスソープ
最近「ステンレスと水と空気の触媒作用で消臭」するステンレスソープなるものが販売されています。確かに消臭されるのですが、商品の原理は不明です。使い方は、普通の石鹸と同じように流水で流しながら手などをゴシゴシ擦るだけです。ステンレスの塊なので半永久的に使えます。筆者は類似品を使用していますが、消臭効果が確認できています。また、キッチンのステンレス部分やスプーンなどでもほぼ同じ効果が期待できます。盲点でした。
自家用車の臭いを軽減するアイテム
車内の臭いはかなりガンコです。というのも、車内の大部分が細かいデコボコの布で覆われており、布の隙間に入り込んでしまった汚れから出る臭い物質はなかなか洗浄もできないためです。ここは「分解」と「マスキング」を使うべきでしょう。
基本は噴霧式消臭剤
噴霧式消臭剤のおすすめポイントは「除菌」と「消臭」を同時にできるものです。アルコールが配合されているものを選び、アルコールが揮発する際に起こる共沸効果で物理的に臭いの元を連れ去ってくれる効果も期待しましょう。同時に除菌までしてくれますし、その上、香料でマスキングまでしてくれますので、密閉された車内などには最適です。(無香料タイプもあります)
釣り帰りに気を付けたいこと
ロッドやクーラーボックス、自分の手や服など、釣り帰りに臭いに気を使うことは多いと思います。しかし完璧に洗浄し、消臭スプレーなどで臭いの元をやっつけたつもりでも、臭いが無くならないことがあります。そんな時は靴の裏を見てみましょう。コマセを踏んでいるような場合があり、フロアマットを汚しているかもしれません。フロアマットは、釣行用にビニール製のものを用意しておくと汚れ防止になりますのでおすすめです。
頑固な汚れには「カーシートクリーナー」
なかなか洗浄のできないカーシートですが、あまりに汚れてしまった場合には「カーシートクリーナー」を使用しましょう。多くの場合、泡の発泡作用で汚れを浮かして拭き取るという方式ですが、シートにこびり付いてしまったコマセなどが目視できる場合にはピンポイントでブラシ洗浄しましょう。フロアマット洗浄にも対応しているものを選べば完璧です。
食卓の臭いを軽減するアイテム
さて、体を洗い、釣り道具も車内もキッチンを含む部屋もきちんと消臭できたら、最後は食卓での消臭を考えましょう。
魚の生臭さは料理方法で消す
魚の生臭さの原因であるトリメチルアミンは、酸性のもので中和させると良いと紹介しましたが、一方でこのトリメチルアミンは熱に弱いという性質もあります。つまり、煮魚やお吸い物にすると生臭い青魚などはかなり消臭されます。そこに、日本酒やみりんなどのアルコール成分を加えることで、共沸効果でさらに消臭。さらに、ショウガなどの香りの強い植物でマスキングをすれば嫌な臭いがしない美味しいお魚料理ができます。ちなみに、この対策は日本の伝統的な調理方法になります。
空間消臭剤は有効か?
シュッとひと吹きで検証
筆者の手元に3種類の噴霧式消臭剤があったので、シャケを魚焼き器で焼いて煙を出してから空間に散布するという実験をしてみました。
結果:完全には消臭しきれない
完全に消臭されたわけではありませんが、どれも多少の効果は感じられました。有名メーカーのものはかなりのレベルで対象の臭いを消してくれましたが、香料の強さが要因である可能性もあります。また100円均一ショップのものは、瞬間的に香料の匂いがするものの、一旦外へ出てから部屋で戻るとシャケ臭さが鼻を突きました。無香料の消臭剤を持っていなかったことが今回の結果に繋がってしまいました。
おすすめの無香料の消臭剤
評価の高い「釣専消臭」
釣専消臭という消臭剤ですが、オール天然素材で環境に優しいのに超強力な消臭作用があるという優れもので、しかも無香料。(財)日本紡績検査協会の検査で体臭からタバコや排泄臭まで検査した結果、そのほとんどで99%カットという結果が報告されています。
焼き肉のあとの臭いをサッと消したというTV番組での紹介から、関西地方を中心に売り切れが続きましたが、現在は解消されネットショップや釣具のポイントなどで手に入ります。
ペットにも使える
記事の前半で解説した臭いの原因物質を99%カット、しかもO-157などの菌も20分で99%カットとの試験結果が出ており、今回ご紹介した消臭剤の長所をすべ満たしつつ、即効性が無いという点をクリアした理想の消臭剤と言えます。
臭いを数値化することは可能?
厳密には難しい
厳密に数値化するのは難しいです。「においセンサー」のような機械がありますが、その構造は「臭いの元である酸化物を半導体に付着させ、電気伝導の上がり具合を数値にする」というのが一般的です。つまり、いい香りがするバラの花束の数値が100、鼻を突くような生ゴミの臭いの数値も100だった場合、判別できるのは臭いの強さで、それ以上の事は分かりません。匂いの良い悪いの判断は人の鼻に頼らなければなりません。
臭気強度、快・不快度について
日本の悪臭防止法の中に「臭気強度」というものがあります。0の無臭から5の強烈な臭いまでの6段階で臭気ランクを付けています。また「臭気対策分野」では、-4の極端に不快から、+4の極端に快までの9段階で快・不快のランク付けをしています。双方とも国家資格である「臭気判定士」によるランク付けなのですが、やはり数値化は難しく、個々の判断にゆだねられている状況です。
やはり「不快」に分類される魚の臭い
魚の臭いは臭気対策分野の規定では-2の「不快」に入っています。これは臭気の強弱ではなく臭気の「質」なので、やはり魚の臭いは一般的には敬遠される臭いと言えます。
釣りの臭い今昔
イワシミンチのコマセはかなりの悪臭
現在ではほとんど使われなくなった「イワシミンチ」のコマセ。東京湾のアジビシ船ではその昔、赤く染めたサイコロ状のイカを付け餌に、イワシのミンチをコマセにしてアジサバを狙っていました。船に取り付けてある大型のミンサー(ひき肉を作る機械)から次々に押し出されて来るイワシミンチを釣り船のお客さんがコマセバケツで受け取ります。
この作業やイワシミンチに慣れていない方は、作業中に嘔吐してしまうケースもありました。とにかく臭く、見た目も汚い。二重苦を背負ったエサでした。
今は夢のようなアイテムも
最近のコマセ釣りではほとんどがアミコマセを使っています。また、堤防サビキなどでは、手を汚さないチューブ式のアミコマセや、ブルーベリーの香りのアミコマセなど、臭い対策がバッチリの商品が続々と生まれています。
当然、釣り人が発する臭いも当時と比べると格段に少なくなっています。それでも魚の持つ臭い自体は「悪臭」の部類に分けられています。日々進化し続けている消臭グッズを使って快適な釣りをしたいものです。
釣りにまつわる臭いを諦めずに対策しよう!
釣りをしていて魚やコマセなどでロッドや周辺道具を汚してしまったら、とにかく真水での洗浄が一番なので、まずはじゃぶじゃぶと洗う癖をつけましょう。その上で、消臭アイテムも駆使するのがおすすめです。
釣り由来の臭い対策は一つではありません。さまざまなグッズが売り出され、TPOに合わせた消臭ができるようになっています。ただし、原理が分かっていないと宝の持ち腐れということもあります。快適な釣りライフを送るために消臭グッズに目を向けてみましょう。